主任技術者の設置が不要なケースとは?専門工事一括管理施工制度の要件を解説

2020年10月の建設業法改正で創設された「専門工事一括管理施工制度」は、一定の要件を満たす建設工事について主任技術者の設置を免除する制度です。この記事では制度が適用される条件について詳しく説明していきます。

主任技術者とは?

主任技術者とは、原則として業種や規模に関係なくすべての工事現場に配置される技術者です。主任技術者には「当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどる」(建設業法第26条第1項)重要な役目があるため、建設工事で一定の実務経験を積んだ人だけが就任できます。

主任技術者の役割

建設業法では「建設工事の施工の技術上の管理」とされていますが、その内容は大きく分けて4種類です。

  1. 施工計画の策定・実行
  2. 工事の工程管理
  3. 工事の品質管理
  4. 工事の安全管理

このうち①の施工計画では、工事が予定通り(設計図通り・予算通り・安全に)行われるようにするため、次の5項目を検討します。

  • 工事の目的・内容・契約条件等の把握
  • 現場の条件
  • 基本工程
  • 施工方法
  • 仮設備の選択や配置

このように主任技術者は、工事の工程や品質・安全の確保を行う上で欠かすことができない専門人材です。

主任技術者の設置義務

主任技術者は原則としてすべての建設現場に配置しなければなりません。建設業法第26条第1項の条文をあらためて見てみましょう。

建設業者は、その請け負った建設工事を施工するときは、当該建設工事に関し第7条第2号イ、ロまたはハに該当する者で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「主任技術者」という。)を置かなければならない。

ここでは「建設業者」が「請け負った建設工事を施工するとき」は主任技術者を置かなければならないと書かれています。設置にあたって特に条件などは指定されていません。

ただしこの規定には例外があります。そのひとつが建設業法第26条第2項です。

発注者から直接建設工事を請け負った特定建設業者は、当該建設工事を施工するために締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が2以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が第3条第1項第2号の政令で定める金額以上になる場合においては、前項の規定にかかわらず、当該建設工事に関し第15条第2号イ、ロ又はハに該当する者(当該建設工事に係る建設業が指定建設業である場合にあっては、同号イに該当する者又は同号ハの規定により国土交通大臣が同号イに掲げる者と同等以上の能力を有するものと認定した者)で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「監理技術者」という。)を置かなければならない。

ここでは請負金額が一定以上になる場合など、特定の要件にあてはまる建設工事について、主任技術者に代えて監理技術者を配置することとされています。

監理技術者を置く詳しい要件については『主任技術者・監理技術者とは?資格・要件・役割などの違いのわかりやすいまとめ』をお読みください。

主任技術者が不要になるための要件

もうひとつの例外が、今回説明する「専門工事一括管理施工制度」です。この制度は2020年10月に成立した改正建設業法によって新たに設けられました。

建設業法第26条の3第1項
特定専門工事の元請負人及び下請負人(建設業者である下請負人に限る。以下この条において同じ。)は、その合意により、当該元請負人が当該特定専門工事につき第26条第1項の規定により置かなければならない主任技術者が、その行うべき次条第1項に規定する職務と併せて、当該下請負人がその下請負に係る建設工事につき第26条第1項の規定により置かなければならないこととされる主任技術者の行うべき次条第1項に規定する職務を行うこととすることができる。この場合において、当該下請負人は、第26条第1項の規定にかかわらず、その下請負に係る建設工事につき主任技術者を置くことを要しない。

「専門工事一括管理施工制度」について

条文の内容は少しわかりにくいですが、専門工事一括管理施工制度とは一言でいうと「下請の主任技術者の配置が不要になる」という特例です。建設業法第26条の3と建設業法施行令第30条の条文を総合すると、この制度の要件は次の通りです。

  1. 「特定専門工事」であること
  2. 請負代金が一定未満であること
  3. 書面による合意があること
  4. 元請の主任技術者が置かれていること
  5. 再下請をしないこと

それぞれについて実際に条文を引用しながら見ていきましょう。

その1:「特定専門工事」であること

要件その1は「特定専門工事」であることです。

改正建設業法第26条の3第2項
前項の「特定専門工事」とは、土木一式工事又は建築一式工事以外の建設工事のうち、その施工技術が画一的であり、かつ、その施工の技術上の管理の効率化を図る必要があるものとして政令で定めるものであつて、当該建設工事の元請負人がこれを施工するために締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が2以上あるときは、それらの請負代金の額の総額。以下この項において同じ。)が政令で定める金額未満となるものをいう。ただし、元請負人が発注者から直接請け負つた建設工事であつて、当該元請負人がこれを施工するために締結した下請契約の請負代金の額が第26条第2項に規定する金額以上となるものを除く。

上の条文では具体的な工事について「政令で定める」としていますが、この政令とは建設業法施行令第30条第1項のことです。

法第26条の3第2項の政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
1 大工工事又はとび・土工・コンクリート工事のうち、コンクリートの打設に用いる型枠の組立てに関する工事
2 鉄筋工事

「特定専門工事」に該当するのは、現在のところ「型枠工事」か「鉄筋工事」のどちらかです。

その2:請負代金が一定未満であること

要件その2は「請負代金」です。先ほど引用した改正建設業法第26条の3第2項の中段には、「下請契約の請負代金の額(当該下請契約が2以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が政令で定める金額未満」とされています。

建設業法施行令第30条第2項によると具体的な金額は次の通りです。

法第26条の3第2項の政令で定める金額は、3,500万円とする。

その3:書面による合意・承諾があること

要件その3は「書面による合意」と「書面による承諾」です。

改正建設業法第26条の3第3項
第1項の合意は、書面により、当該特定専門工事(前項に規定する特定専門工事をいう。第7項において同じ。)の内容、当該元請負人が置く主任技術者の氏名その他の国土交通省令で定める事項を明らかにしてするものとする。

これは元請負人と下請負人の合意に関する規定です。書面には「工事の内容」「元請負人が置く主任技術者の氏名」「当該特定専門工事にかかる下請契約の請負代金の総額(その他の国土交通省令で定める事項)」を記載します。

なお紙の文書ではなく電子データによる合意も可能です。

同第4項
第1項の元請負人及び下請負人は、前項の規定による書面による合意に代えて、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより第1項の合意をすることができる。この場合において、当該元請負人及び下請負人は、当該書面による合意をしたものとみなす。

元請負人・下請負人の合意に加え、注文者(発注者)からの承諾も必要になります。

同第5項
第1項の元請負人は、同項の合意をしようとするときは、あらかじめ、注文者の書面による承諾を得なければならない。

こちらも紙の文書と電子データのどちらでも構いません。

同第6項
注文者は、前項の規定による書面による承諾に代えて、政令で定めるところにより、同項の元請負人の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより、同項の承諾をする旨の通知をすることができる。この場合において、当該注文者は、当該書面による承諾をしたものとみなす。

その4:元請の主任技術者が置かれていること

要件その4は「元請負人が主任技術者を置いていること」です。

改正建設業法第26条の3第7項
第1項の元請負人が置く主任技術者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する者でなければならない。
1 当該特定専門工事と同一の種類の建設工事に関し1年以上指導監督的な実務の経験を有すること。
2 当該特定専門工事の工事現場に専任で置かれること。

元請負人の主任技術者には、同種の工事で「1年以上」の実務経験が必要です。また主任技術者は「専任」でなければなりません(他の現場との掛け持ちはNGです)。

その5:再下請をしないこと

要件その5は「(下請負人が)再下請をしないこと」です。

改正建設業法第26条の3第9項
第1項の下請負人は、その下請負に係る建設工事を他人に請け負わせてはならない。

この規定に違反した場合は処分の対象になりますが、専門工事一括管理施工制度を利用しない場合(下請負人が主任技術者を置いている場合)は再下請が可能です。

まとめ

「専門工事一括管理施工制度」の利用にはさまざまな要件を満たす必要があります。とはいえ人材不足に悩む建設業界では、主任技術者が不要になるのは大きなメリットです。もし条件に当てはまる工事を受注したなら、ぜひ積極的に制度の利用を検討してみてください。

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