公共工事の入札にチャレンジしたい建築・土木事業者に知ってほしいことまとめ

国や自治体、独立行政法人などが発注する公共工事。建築・土木事業者にとって多くのメリットがある一方で、受注するには入札が必要となり、入札そのものにもさまざまな参加条件が設けられています。この記事では公共工事の受注に必要な資格や工事案件の見つけ方、入札の流れなどについて説明していきます。公共工事に興味をお持ちの方は、ぜひ参考にしてみてください。

「公共工事」とは

公共工事の入札資格や入札の流れを知る前に、まずは公共工事とはどのようなものか確認していきましょう。

公共工事の定義

「公共工事」にはさまざまな法令が関係しています。たとえばそのうちのひとつ「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」には、公共工事の定義についてこのように書かれています。

“この法律において「公共工事」とは、国、特殊法人等又は地方公共団体が発注する建設工事をいう。”(第二条第二項)

この中にある通り、公共工事の発注者は「国・特殊法人等・地方公共団体」です。「特殊法人等」という表現は少しわかりにくいですが、他の法令、たとえば法人税法に規定された「公共法人」や、建設業施行規則に規定された「国土交通省令で定める法人」などがこれに相当します。少し長くなりますが、それぞれ確認してみましょう。

法人税法の「公共法人」

  • 沖縄振興開発金融公庫
  • 株式会社国際協力銀行
  • 株式会社日本政策金融公庫
  • 港務局
  • 国立大学法人
  • 社会保険診療報酬支払基金
  • 水害予防組合
  • 水害予防組合連合
  • 大学共同利用機関法人
  • 地方公共団体
  • 地方公共団体金融機構
  • 地方公共団体情報システム機構
  • 地方住宅供給公社
  • 地方税共同機構
  • 地方道路公社
  • 地方独立行政法人
  • 独立行政法人(その資本金の額若しくは出資の金額の全部が国若しくは地方公共団体の所有に属しているもの又はこれに類するものとして、財務大臣が指定をしたものに限る。)
  • 土地開発公社
  • 土地改良区
  • 土地改良区連合
  • 土地区画整理組合
  • 日本下水道事業団
  • 日本司法支援センター
  • 日本中央競馬会
  • 日本年金機構
  • 日本放送協会

※「法人税法 別表第一」より引用

建設業施行規則の「国土交通省令で定める法人」

  • 公益財団法人JKA
  • 国立研究開発法人科学技術振興機構
  • 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
  • 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
  • 国立研究開発法人理化学研究所
  • 首都高速道路株式会社
  • 消防団員等公務災害補償等共済基金
  • 新関西国際空港株式会社
  • 地方競馬全国協会
  • 中間貯蔵・環境安全事業株式会社
  • 東京地下鉄株式会社
  • 東京湾横断道路の建設に関する特別措置法(昭和六十一年法律第四十五号)第二条第一項に規定する東京湾横断道路建設事業者
  • 独立行政法人環境再生保全機構
  • 独立行政法人勤労者退職金共済機構
  • 独立行政法人中小企業基盤整備機構
  • 独立行政法人農業者年金基金
  • 中日本高速道路株式会社
  • 成田国際空港株式会社
  • 西日本高速道路株式会社
  • 日本私立学校振興・共済事業団
  • 日本たばこ産業株式会社
  • 日本電信電話株式会社等に関する法律(昭和五十九年法律第八十五号)第一条第一項に規定する会社及び同条第二項に規定する地域会社
  • 農林漁業団体職員共済組合
  • 阪神高速道路株式会社
  • 東日本高速道路株式会社
  • 本州四国連絡高速道路株式会社
  • 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(昭和六十一年法律第八十八号)第一条第三項に規定する会社

※「建設業施行規則 第十八条」より引用

これらの特殊法人等は、いわゆる「財団法人」と名のつく法人や民営化された「元・国営法人」など、公共性の高い事業を行う法人です。

公共工事発注者の内訳としては、国と地方自自治体が全体の8割近く、残りを特殊法人等が占めています。


※国土交通省「建設産業の現状」 より引用

公共工事の具体例

国土交通省の資料によれば、公共工事の具体例は次のようになっています。
※国土交通省「建設業法等における定義」より引用

公共工事に含まれるもの公共工事に含まれないもの
○国から発注されたダムの築造作業
○地方自治体から発注された公民館の建築作業
○維持管理(委託)として行われる、道路の補修作業
○土木工作物の建設に用いるプレキャスト製品製造
○PFIで発注される運営業務(場合による)
○維持管理として行われる、除草作業、除雪作業
○設計業務、監理業務 

上記の表の通り建築・土木工事に関連していても、「建設工事」でないものは公共工事とならないケースが多いため注意してください。

公共工事の市場規模

東日本大震災からの復興事業や2020年に開催予定されていた東京オリンピック需要の影響もあり、国内の建設工事はここ数年高水準で推移してきました。たとえば2020年度の建設投資額(見通し)は63兆1,600億円で、2017年度から4年連続で60兆円台となっています。


※国土交通省「令和2年度(2020年度) 建設投資見通し 概要」より引用

このうち政府投資額は全体の41%を占める25兆 6,200億円で、さらにその中の16兆9,300億円が公共事業です。

公共工事の入札について

建築・土木事業者が公共工事に参加するには「入札」が必要です。以前は発注者側が特定の事業者を指名する「指名競争入札」が中心でしたが、現在では国の方針により、より公平性を保てる「一般競争入札」が増えています。

あらかじめ知っておきたい!公共工事をはじめる際に必要なコスト

公共工事を受託するには、事業者側にも一定のコストが発生します。一例としては以下のものが挙げられます。

  • 行政書士への委託費用
  • 提出用資料作成などの費用
  • 発注元からの図面購入費用、など

どのようなコストが必要になるかは、発注者や公共工事の内容、入札参加の方法(自分でやるか、行政書士に依頼するかどうか)によっても変わってきます。入札参加を検討する際は事前に確認しておく必要があるでしょう。

公共工事の入札に参加するためには「参加資格」が必要

公共工事の入札には参加資格が必要です。代表的なものとしては「建設業許可」が挙げられますが、この許可も「土木一式工事」や「建築一式工事」など、工事の内容に応じて計29種類の中から必要なものを取得しなければなりません。なお建築業許可を取得するには「経営業務の管理責任者」や「専任技術者」を用意する、一定額(500万円)以上の資産を確保するといった要件を満たす必要があります。

もうひとつ、忘れてはならないのが「経営事項審査(経審)」です。経審とは国交省の認可を受けた経営状況分析機関が行う財務諸表審査で、これによって事業者の「経営状況」や「経営規模」「技術力」「その他の審査項目(社会性等)」が数値化されます。

国土交通省の場合は企業の「財産的基礎」つまり経営力に応じて参加できる工事規模を決定しているため、公共工事を受託したい事業者にとって「経営事項審査」は、公共工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者が必ず受けなければならない審査です。

これらの必要条件を満たしたら、発注者ごとに作成する「有資格者名簿」への登録申請を行う(名簿に登録される)ことで入札に参加できるようになります。(『入札参加資格とは何か?種類や取得のための要件、等級についてわかりやすく解説します』も参照してください)。

※国土交通省「公共工事の入札契約制度の概要」より引用

なおこのような参加資格は、国や地方公共団体、特殊法人等によっても異なります。公共工事経験のない事業者が独力で入札に参加するのは困難ですので、必要に応じて行政書士などのサポートを受けたほうが安心でしょう。

自社に適した公共工事案件の見つけ方

必要な資格を満たしたら、いよいよ入札です。とはいえ公共工事は非常に多く、東京都内だけでも1日あたり1000件以上の入札案件が公告されると言われています。

このため建築・土木事業者が自分ですべての公告に目を通し、自社に合った入札案件を見つけるというのは現実的ではありません。オンラインの公共工事入札情報サイト(「入札ネット+α」など)を活用して、システムによって入札可能案件を探す方が効率的です。

なおシステムを利用する際は、以下のような要素を軸にすると良いでしょう。

自社が持っている「参加資格」で入札に参加できるか

いちばん重要な要素です。まずは29種類の建設業許可のうち必要な許可を取得しているか、経営規模の基準をクリアしているか、といった点を確認する必要があります。

地域

公共工事の行われる地域が、自社の対応できる範囲かどうかも重要な要素です。出張対応で問題ないという場合も多いですが、中には地元企業を優遇する入札案件もあるため注意が必要でしょう。

支払いのタイミング

意外と重要な要素が、支払いのタイミングです。特に中小規模の公共工事では「全額後払い」というケースも少なくないため、自社の資金繰り状況とも相談しながら入札案件を探す必要があります。

公共工事の入札の流れ

公共工事の入札は、下の図のように大きく分けて「資格審査→入札・契約→施工」という流れで行われます。ここではそれぞれのプロセスについて簡単に説明します。


※国土交通省「公共工事の入札契約制度の概要」より引用

①資格審査

建設業許可の取得29種類からなる建設業許可のうち必要なものを取得します。資格の取得には資格や一定の経験(実績)が必要です

     ↓

経営事項審査(経審)設業法施行規則で指定された財務諸表を提出し、経営規模等について審査を受けます

     ↓

有資格者名簿への登録申請有資格者名簿に登録を受けるため「競争入札参加資格申請」を指定の様式で作成・提出します(郵送、もしくはインターネットによる申請など)。原則として、参加申請は官公庁や自治体など、発注者ごとに行います。
※参考①:国土交通省「国土交通省地方整備局等 建設工事競争参加資格審査申請書作成の手引-令和3・4年度版-」

     ↓

企業の格付け審査結果に基づいて入札の「有資格者名簿」に登録されます

②入札・契約

「一般競争入札」の場合(規模の大きな公共工事に多い)

公告発注者が公共工事の公募を行います

     ↓

参加資格確認発注者に「入札参加資格確認申請書」を提出し、構想競争参加資格の確認を受けます※企業評価のプロセスの一部

     ↓

通知発注者から確認の結果が通知されます※企業評価のプロセスの一部

     ↓

入札発注者に「入札書」と添付資料を提出します

     ↓

契約発注者と工事の受託契約を交わします

詳しくは「一般競争入札とは?他の入札との違いや流れ、落札のコツまで解説」をご覧ください。

「工事希望型指名競争入札」の場合(東京都と都内の市区町村が発注する公共工事に多い)

掲示等発注者が公共工事の公募を行います

     ↓

技術審査発注者に「競争参加資格確認申請書」を提出し、競争参加資格の確認を受けます※企業評価のプロセスの一部

     ↓

指名基準発注者が入札参加者の指名基準を決定します※企業評価のプロセスの一部

     ↓

指名業者の選定発注者が指名基準に基づき、入札に参加する事業者を選定します※企業評価のプロセスの一部

     ↓

入札発注者に「入札書」と添付資料を提出します

     ↓

契約発注者と工事の受託契約を交わします

なお「通常指名競争入札」の場合、上記「工事希望型指名競争入札」の「指名基準」以降と同じプロセスになります。

③施工

監督「契約の適正な履行を確保する」ため、発注者によって工事の監督が行われます

     ↓

検査あらかじめ作成された「チェックポイント」に基づき、発注者が工事の内容を検査します

     ↓

工事成績評定工事の完成後、発注者が工事ごとの施工状況や出来ばえ、技術提案などを採点します

公共工事の入札で、落札者が決まる仕組みとは

公共工事の入札では、一般に「入札価格」で落札者が決まります。ただし入札価格が低ければ低いほうが良いというわけではなく、発注者が決めた「予定価格と最低制限価格の範囲内」で、最も低い価格で入札した「最低価格自動落札」が一般的です。

あらかじめ設定された調査基準価格を下回る入札があった場合に、その入札価格で適正な履行が可能であるか否かについて調査した上で落札者を決定する「低入札価格調査」という制度もあります 。

※参考:総務省「方公共団体の入札・契約制度」

これらの他にも、価格のほかに「技術力」を評価対象に加えて工事の品質や施工方法を総合的に判断する「総合評価落札方式」という落札方式もあります。国が推奨する制度ですが、総合評価を行う技術者が足りないことなどから、数はそれほど多くないのが現状です。

※参考:国土交通省「公共工事発注にあたっての総合評価落札方式活用ガイド」

まとめ

今回は公共工事の概要や発注者、公共工事に入札するコストや入札資格、入札案件の見つけ方、そして入札の流れについて説明しました。膨大な入札案件の中から、自社に合った公共工事を見つけることは簡単ではありません。効率的な情報収集のためにも、「入札ネット+α」を上手に活用してください。

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