業界記事

【ズームアップ】 「ダムはムダ」なのか/コンクリートが人命守る

2020-09-16

 「コンクリートから人へ」をスローガンに掲げた政権交代の影響により、何かと目の敵にされてきたダムの存在が今、改めて見直されている。昨年の「令和元年東日本台風」では、試験湛水中だった八ッ場ダム(群馬県)をはじめとする下久保ダム(群馬県・埼玉県)など、利根川上流のダム群等で洪水を貯留したことで越水の回避につながったことは記憶に新しい。
 また九州地方を中心に甚大な被害をもたらした今年の「令和2年7月豪雨」でも完成済みのダムが洪水調節効果を発揮して、下流の市街地を守った事例が目立つ。例えば、大分県日田市市街地の上流にある松原ダムと下筌ダムでは、7月6日から8日の大雨によりダム上流域で628㎜の累加雨量を観測したが、異常洪水時防災操作を行って両ダムに福岡ドーム約15杯分の洪水を貯留し、下流の洪水被害を減らした。7月下旬の前線と低気圧の影響による豪雨では、山形県内の最上川水系で計画高水位を超える観測史上最高水位を更新したものの、寒河江ダムや白川ダム、長井ダムの洪水調節効果もあって下流の水位低下が確認されている。各ダムを視察した足立敏之参議院議員(自民党)は、ダムが大きな洪水調節機能を発揮して被害軽減につながったとし「ダムは効果があるという証し」と話す。まさに全国各地で「コンクリートが人命を守っている」のだ。
 1973年に完成した松原ダムと下筌ダムは、10年以上にわたり「蜂の巣城紛争」という反対運動が展開されたことで有名だが、今回、整備効果があることが証明された。八ッ場ダムに関しては、本体工事が入札公告された後に一旦中止が決まったが、流域の都県知事らの反対を受けて検証が実施され、結果的に事業継続が決まり、昨年度の完成に至った。
 そんな中、7月の豪雨により熊本県の球磨川で未曾有の被害が発生した。球磨川が流れる人吉盆地は球磨川本川と川辺川の合流点にあって水が集まりやすく、下流が狭窄部になっているため歴史的に浸水被害が頻発してきた。近年は川辺川ダムの事業中止に伴い「ダムによらない治水」の検討が進められていたが、抜本的な対策には至らず悲劇を招いてしまった。
 川辺川ダムを巡っては、流域の12市町村が県と国に対してダム建設を含めた洪水の検証を速やかに実施し「目標時期を定め川辺川ダム建設を含む抜本的な治水対策を講ずるべき」とする決議を行ったことを受け、8月下旬に球磨川の豪雨を検証する委員会が立ち上がった。検証結果を踏まえて出される結論は全国的に注目を集めている。
 今後の治水対策は、あらゆる関係者が流域全体で行う「流域治水」への展開が進む見通しで、ハード対策もソフト対策も重要となる。ダムカード、ダムカレー、ダム再生など、ダムを取り巻く環境は大きく変わった。本当に「ダムはムダ」なのか。水災害リスクが増大している令和の時代においては、地域の実情に応じ、各河川で真に必要な治水対策は何かを真剣に考える必要がある。間違っても行政の不作為や「人災」により、本来守ることができた命を守れないようなことがあってはならない。
 

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