公契約条例とは?全国の制定状況や建設事業者が気をつけるべきポイントを解説

自治体が発注する工事に関わる労働者の賃金条件や、公共サービスの向上などを目的とする「公契約条例」

北は北海道から南は沖縄まで、すでに多くの自治体が条例を制定、もしくは制定に向けた議論を進めています。

この記事では公契約条例が注目される理由をはじめ、公契約条例の内容や目的、全国の制定状況や建設事業者への影響などについて説明していきます。

公契約条例とは

公契約条例とは自治体が発注する公共工事などの契約(公契約)について、主に労働者の賃金条件などを定めた条約です。

そもそも「公契約」というのは国や自治体が民間企業と結ぶ契約のことで、公共工事や物品購入、公共サービスの業務委託など、さまざまな内容が含まれています。

公契約は、国や自治体がそれぞれ独立して行います。同じように公契約条例も、統一的な法令ではなく各自治体ごとに制定されるものです。

公契約条例が注目される背景

海外では古くから、公契約に関する労働条件が注目されてきました。たとえば1891年にイギリスの庶民院で可決された「公正賃金決議」や1899年にフランス政府が出した「ミルラン命令」は、どちらも公契約の労働者賃金について規定しています。また国際労働機関(ILO)も、1941年に「公契約の労働条項」についての条約(ILO94号条約)を制定しました。

一方、日本で公契約の労働者賃金について議論されるようになったのは比較的最近のことです。自治体によって公契約条例が制定されたのも2009年の「野田市公契約条例」が初めてで、いまだに国による公契約法の制定や、ILO94号条約の批准は行われていません。

それでもバブル崩壊によって建設労働者の賃金水準が大きく下がったことや、2011年に発生したプール事故などをきっかけに、公契約条例に対する関心が全国的に高まりつつあります。

公契約条例の内容と目的

公契約条例とは「公契約に関する条例」です。広い意味では「入札基準や契約業者の選定基準」などさまざまな内容が含まれますが、一般には「公契約に関する労働者の賃金条件」を規定する条例のことを公契約条例と呼びます。

  • 基本条例型(理念型):広い意味の公契約条例
  • 賃金条項型:労働者の賃金条件を明記した公契約条例

一般的な公契約条例では、公契約の相手方となる民間企業に対して「一定基準以上の賃金を労働者に支払う」ことが義務付けられています。その目的は主に以下の3点です。

  1. 「公正な競争」を確保し、労働者にしわ寄せが来るような不当な価格競争を防ぐ
  2. 「公正な労働契約」を実現し、公共事業でのワーキングプアの発生を防ぐ
  3. 民間に委託する公共サービスの質を確保する

労働者の保護に加え、公契約に関わる民間事業者の健全な成長、そして地域の活性化のためにも公契約条例は大きな役割を果たすと期待されています。

公契約条例のメリット・デメリット

公契約条例は、労働者をはじめ公契約に関わるすべての当事者にメリットがあります。

労働者にとってのメリット

公契約条例は契約の相手方となる事業者に対し「労働者に一定基準以上の賃金を支払う」よう義務付けるものです。これが遵守されることで労働者の生活は安定し、結果的に質の高い労働にもつながります。

事業者にとってのメリット

事業者にとって公契約条例はある意味「負担」を強いるものです。しかし労働者の賃金を一定水準以上に保つことは優秀な人材の確保や後継者不足の解消につながり、さらに従業員が質の高い労働を提供することで企業としての信頼確保にもつながります。

自治体にとってのメリット

自治体にとって公契約条例は、住民(特に労働者やその家族)の生活保護に役立ち、また公共サービスの質の向上にもつながります。労働者の収入が上がれば自治体の税収も上がり、一方で生活保護などの社会保障費が低下するのもメリットでしょう。

住民にとってのメリット

住民にとって、公契約条例は公共事業や公共サービスの質を上げ、ひいては住民の生活を幸福にするものです。

一方、公契約条例に否定的な立場の人たちからは、「公共事業の高止まりにつながる」「条例が守られているかチェックするために人手が必要」「労働者の賃金が条例で示された基準に張り付いて、かえって賃金の引き下げにつながりかねない」というデメリットや懸念が指摘されています。

公共調達基本条例との違い

自治体によっては、公契約条例の代わりに「公共調達基本条例」という条例が制定されていることがあります(東京都江戸川区、東京都国分寺市、高知県高知市など)。しかし条例の内容は基本的に同じで、公契約に関わる労働者の賃金を規定するものです。

細かな条文の違いはありますが、基本的には「同じもの」と考えて良いでしょう。

公契約条例の制定状況

公契約条例(公契約基本条例、公共調達基本条例などを含む)を規定している自治体は、全国25カ所です(令和3年7月現在)。そのうちの18カ所は、埼玉・東京・千葉・神奈川の1都3県の自治体です。

公契約条例(賃金条項型)を制定している自治体

自治体条例の名称
1埼玉県越谷市越谷市公契約条例
2埼玉県草加市草加市公契約基本条例
3東京都渋谷区渋谷区公契約条例
4東京都足立区足立区公契約条例
5東京都千代田区千代田区公契約条例 
6東京都世田谷区世田谷区公契約条例 
7東京都目黒区目黒区公契約条例 
8東京都新宿区新宿区公契約条例
9東京都杉並区杉並区公契約条例
10東京都江戸川区江戸川区公共調達基本条例の一部を改正する条例
11東京都多摩市多摩市公契約条例
12東京都国分寺市国分寺市公共調達条例
13東京都日野市日野市公契約条例
14千葉県野田市野田市公契約条例
15千葉県我孫子市我孫子市公契約条例
16神奈川県川崎市川崎市契約条例
17神奈川県相模原市相模原市公契約条例 
18神奈川県厚木市厚木市公契約条例
19愛知県豊橋市豊橋市公契約条例
20愛知県豊川市豊川市公契約条例
21兵庫県三木市三木市公契約条例
22兵庫県加西市加西市公契約条例
23兵庫県加東市加東市工事等の契約に係る労働環境の適正化に関する条例
24高知県高知市高知市公共調達条例
25福岡県直方市直方市公契約条例

公契約条例(基本条例型)を制定している自治体

一方、賃金条件を明記しない「基本条例型(理念型)」を制定している自治体はさらに多く、北海道から沖縄まで計42カ所に上ります。

自治体条例の名称
1北海道旭川市旭川市における公契約の基本を定める条例
2青森県八戸市八戸市公契約条例
3秋田県秋田市秋田市公契約基本条例
4秋田県由利本荘市由利本荘市公契約基本条例
5岩手県県が締結する契約に関する条例
6岩手県花巻市花巻市公契約条例 
7岩手県北上市北上市公契約条例
8山形県山形県公共調達基本条例
9福島県郡山市郡山市公契約条例
10群馬県前橋市前橋市公契約基本条例
11東京都葛飾区葛飾区公契約条例
12石川県加賀市加賀市公契約条例
13長野県長野県の契約に関する条例
14静岡県事業者等を守り育てる静岡県公契約条例
15愛知県愛知県公契約条例
16愛知県瀬戸市瀬戸市公契約条例
17愛知県碧南市碧南市公契約条例
18愛知県大府市大府市公契約基本条例
19愛知県田原市田原市公契約条例 
20愛知県尾張旭市尾張旭市公契約条例
21愛知県豊明市豊明市公契約条例
22愛知県岡崎市岡崎市公契約条例
23愛知県東郷町東郷町公契約条例
24愛知県西尾市西尾市公契約条例
25岐阜県岐阜県公契約条例
26岐阜県大垣市大垣市公契約条例 
27岐阜県高山市高山市公契約条例
28岐阜県岐阜市岐阜市公契約条例
29岐阜県飛騨市飛騨市公契約条例
30三重県津市津市公契約条例
31三重県四日市市四日市市公契約条例
32奈良県奈良県公契約条例 
33奈良県大和郡山市大和郡山市公契約条例
34京都府京都市京都市公契約基本条例
35京都府向日市向日市公共調達基本条例
36兵庫県尼崎市尼崎市公共調達基本条例
37兵庫県丹波篠山市丹波篠山市公契約条例
38和歌山県湯浅町湯浅町における公契約の基本を定める条例 
39広島県庄原市庄原市における公契約の基本を定める条例
40香川県丸亀市丸亀市公共調達基本条例
41沖縄県沖縄県の契約に関する条例
42沖縄県那覇市那覇市公契約条例

建設事業者に求められる行動と注意点

公契約条例が制定されている自治体で入札に参加する建設事業は、あらかじめ自社の労働条件についてしっかり見直さなくてはなりません。

たとえば労働者の賃金基準となることの多い「(最低賃金法の)最低賃金」は地域によって金額が異なります。具体的な賃金をいくらにすべきなのか、入札に参加する自治体の公契約条例に従って検討する必要があるでしょう。

なお日本全体の中で公契約条例を制定している自治体(県、市区町村)はまだまだ少数ですが、公契約条例を制定していないからといって労働者の権利を軽く考えて良いというわけではありません。

公契約条例には「労働者の待遇改善」だけでなく、事業者にとってのメリット、具体的には「優秀な人材の確保」や「後継者不足の解消」「企業としての信頼確保」といった効果もあります。また今は公契約条例がない自治体も、近いうちに条例が制定される可能性は決して少なくありません。

入札に参加する建設事業者は、公契約条例の有無にかかわらず、常に公契約条例を意識しておくことが必要でしょう。

まとめ

今回は「公契約条例」について説明しました。公契約とは国や自治体が民間企業などと結ぶ契約のことですが、一般に公契約条例とされるのは「労働者の賃金条件」を定めた条例のことです(賃金条項型の公契約条例)。

日本ではすでに25の自治体が公契約条例(賃金条項型)を制定していますが、この数はこの先も増えると予想されています。公共工事入札に参加する建設事業者の皆さんは、自社の雇用条件の確認と、こまめな情報収集をしっかり行っていきましょう。

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