最低制限価格制度とは?制度の目的や具体例も解説

最低制限価格制度とはどのようなものか、制度の概要と目的、どのようなケースで利用されるかについて解説します。公共工事の受注を目指すすべての事業者は、この記事を参考に適正な価格設定での入札参加を目指してください。

最低制限価格制度とは

最低制限価格制度とは、公共事業の入札において、工事の品質維持のために適正な価格設定を目指す制度です。具体的には、公共工事の発注者(自治体)が入札の最低ラインとなる価格、つまり「最低制限価格」を設定し、それよりも低い金額での入札はすべて失格となります。

制度の目的

最低制限価格制度を導入する目的は、不当に安い価格での取引を阻止することです。

このような不当廉売(ダンピング)は、手抜き工事による品質の低下や、安全対策がおろそかになって事故が発生しやすくなる、などのリスクがあります。

またコストを無視した価格設定のツケが下請業者に押しつけられ、中小事業者や個人の建設事業者の経営を圧迫する可能性もあるでしょう。

加えて、体力のある大規模事業者が採算度外視の金額で工事を請け負うことで地元の事業者が仕事を失い、結果として地域経済の衰退につながるおそれもあります。

最低制限価格制度には、こうした事態を防ぐ役割が期待されています。

対象となる契約

最低制限価格制度の対象となる契約は、地方自治体が発注する「工事(公共工事)」と「請負」です。このうち公共工事には、道路、橋、公共施設の建設や改修、公共空間の整備などが含まれます。以下、各種の公共工事について簡単に説明します。

土木工事

土木工事は、建築物の建設を含まず、地形を改変したり、道路や橋、ダム、トンネルなどの公共の施設を建設・維持する工事を指します。これには、排水設備の設置や改修、河川や海岸の改修、道路の設置や改善などが含まれます。

建築工事

建築工事は、建物や構造物の建設、改修、解体を含む工事を指します。これには、学校、病院、図書館、公共事務所などの公共建築物の建設や改修が含まれます。

管工事

管工事は、水道管、ガス管、下水道管などの配管工事を指します。これには、新たな配管の設置、既存の配管の修理や交換、配管の清掃や保守などが含まれます。

電気工事

電気工事は、電力供給や照明、通信、防火・防犯システムなどの電気設備の設置、改修、保守を含む工事を指します。

造園工事

造園工事は、公共の公園や広場、緑地などの設計、建設、改修を含む工事を指します。これには、植物の植栽、芝生の敷設、園路や広場の設置、水景の作成などが含まれます。

なお上記の「公共工事」に該当したからといって、無条件ですべての入札が最低制限価格制度の対象となるわけではありません。どの入札に制度を適用するかは自治体の判断に任されています。

たとえば町田市の場合、以下の入札が最低制限価格制度の対象とされています。

・原則として予定価格が1000万円を超える建設工事の競争入札
・原則として予定価格が50万円を超える工事関連業務委託契約の競争入札

最低制限価格について/町田市ホームページより

制度の導入状況

国土交通省の地方公共団体におけるダンピング対策取組状況の「見える化」によると、令和2年10月1日の時点で最低制限価格制度を導入している自治体の割合は以下の通りです。

  • 政令市…100%
  • 市区…93%
  • 町村…84%

このように、すでにほとんどの自治体が最低制限価格制度を導入しています。ただし最低制限価格の基準(計算方法)は自治体によって違い、基準を定めていても、具体的な計算式は「非公表」としている自治体もあります。

最低制限価格制度の具体例

ここでは最低制限価格制度を導入していて、具体的な基準(計算式)を公表している自治体の例をいくつか紹介します。

千葉県

(適用対象工事等)
第2条 工事の請負(予定価格2千5百万円以上の工事の請負を除く。)又は製造の請負(地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令(平成7年政令第372号)の適用を受ける調達契約を除く。)に係る入札においては、最低制限価格を設けるものとする。ただし、当該入札に係る契約の履行に関し、特にその必要がないと認められるときは、最低制限価格を設けないことができるものとする。

(最低制限価格の基準)
第3条 最低制限価格は、予定価格算出の基礎となった次の各号に掲げる額(1円未満切り捨て)の合計額(ただし、その額が入札書比較価格(予定価格に110分の100を乗じて得た額)に100分の92を乗じて得た額を超える場合にあっては100分の92を乗じて得た額とし、合計額が入札書比較価格に100分の75を乗じて得た額に満たない場合にあっては100分の75を乗じて得た額とする。)から1万円未満を切り捨てたものに100分の110を乗じて得た額を基準として設けるものとする。なお、算出にあたっては別表に留意するものとする。
(1) 直接工事費に100分の97を乗じて得た額
(2) 共通仮設費に100分の90を乗じて得た額
(3) 現場管理費に100分の90を乗じて得た額
(4) 一般管理費等に100分の68を乗じて得た額
2 工事等の性質上前項の規定により難いものについては、前項に規定する算出方法にかかわらず、入札書比較価格に100分の92を乗じて得た額から入札書比較価格に100分の75を乗じて得た額の範囲内で適宜の額から1万円未満を切り捨てた額に、100分の110を乗じて得た額とする。

千葉県ホームページ「建設工事等に係る最低制限価格制度実施要領より

東京都北区

1対象となる業務
(1)工事または製造の請負
予定価格130万円以上
(2)その他についての請負
工事設計、測量、地質調査等の委託
予定価格500万円以上
清掃・業務委託等
予定価格1,000万円以上
給食調理業務委託
予定価格1,000万円以上  

2最低制限価格の決定方法
請負ごとに、予定価格の10分の9から10分の7までの範囲で定めます。
なお、予定価格が2,000万円以上の工事については、原則として下記の算定式により最低制限価格を設定します。  

《算定式》
直接工事費×0.95+共通仮設費×0.9+現場管理費×0.8+一般管理費等×0.55
※算出した金額に1,000円未満の端数が生じた場合は、端数を切り捨てる。
ただし、予定価格の内訳に発生材(有価物)の売却費またはガス工事費等が含まれている場合は、その費用を算定した金額に合算します。
また、建築工事(建築設備工事を含む)については、直接工事費に現場管理費の一部に相当する額(以下「現場管理費相当額」という)が含まれているため、最低制限価格の算定に当たっては、直接工事費から現場管理費相当額を減じた額を直接工事費とし、現場管理費は、現場管理費に現場管理費相当額を加えた額とします。
なお、現場管理費相当額は、直接工事費と明確に区分できる場合を除き、直接工事費の10分の1(昇降機設備工事にあっては10分の2)を乗じた額とします。

北区ホームページ「入札における最低制限価格について|東京都北区」より

横浜市

【最低制限価格〔範囲 予定価格の7.5/10~9.5/10〕】  

公共建築工事積算基準(以下「営繕基準」という。)以外で積算している工事(下の2及び3以外はこちらに該当します。)
(直接工事費×1.0(①)+共通仮設費×0.9(②)+現場管理費×0.9(③)+一般管理費×0.68(④))×ランダム係数
営繕基準のみを積算に使用している工事(昇降機設備工事 ※1 を除く。)
{(直接工事費×9/10) ※2 ×1.0(①)+共通仮設費×0.9(②)+(現場管理費+直接工事費×1/10) ※3 ×0.9(③)+一般管理費×0.68(④)}×ランダム係数
営繕基準のみを積算に使用している工事(昇降機設備工事)
{(直接工事費×8/10) ※2 ×1.0(①)+共通仮設費×0.9(②)+(現場管理費+直接工事費×2/10) ※3 ×0.9(③)+一般管理費×0.68(④)}×ランダム係数
(上記①~④までの合計額を「算定基礎額」とします。)  

*算出式中の「ランダム係数」は1.0000~1.0050 の範囲で無作為に抽出した数値
*算定基礎額が、予定価格×9.5/10÷1.0050を超える場合は、予定価格×9.5/10÷1.0050×ランダム係数
*算定基礎額が、予定価格×7.5/10に満たない場合は、予定価格×7.5/10×ランダム係数
*算出された最低制限価格から予定価格までの範囲内に入札がない場合で、「算定基礎額」から「算定基礎額にランダム係数の最大値(1.0050)を乗じた価格」の範囲内に入札があったときは、その範囲内で最も高い入札の価格を最低制限価格の上限額とし、その上限額以下になるよう算定基礎額に乗じるランダム係数を設定します。

横浜市ホームページ「最低制限価格制度及び低入札価格調査制度の取扱いについて」より

低入札価格調査制度との違い

最低制限価格制度と似ている制度に「低入札価格調査制度」があります。

低入札価格調査制度とは

低入札価格調査制度とは、公共事業の入札価格が一定の基準価格(調査基準価格)を下回った場合に、その低価格が適切かどうか聴取・調査する制度です。この制度は、適切な価格で公共事業が行われることを保証するために設けられています。

低入札価格調査制度の目的

低入札価格調査制度の目的は、最低制限価格制度とほとんど同じです。つまり公共事業の入札において、適切なコストで高品質な工事が行われるよう不当廉売(ダンピング)行為を防ぐために行われます。

最低制限価格制度との違い

最低制限価格制度では、最低制限価格を下回る入札は無条件で失格となります。これに対し低入札価格調査制度では、価格が調査基準価格を下回った場合でも、その価格が適切であることを説明・証明できればその入札は有効です。

ちなみに最低制限価格制度の導入状況は、政令市100%、市区68%、町村27%となっています(令和2年10月1日時点)。

まとめ

最低制限価格制度は、公共事業における品質確保と適正価格形成を目指す重要な制度です。しかし、まだ全国的に見て導入率が低いのが現状であり、制度の理解と適切な運用が求められています。

最低制限価格制度を適切に理解し、活用することで、過度な低価格競争による品質低下や安全対策のおろそかを防ぎ、公共事業の品質向上と効率的な実施を可能にすることができます。公共工事への参加を検討している事業者は、この制度について正しく理解して、適正な価格設定での入札参加を目指してください。

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