業界記事

〈建設論説〉 一人親方も「労働者」だ

2017-04-28

 建設業における死亡災害は年々減少傾向にあるものの、2015年の労働災害による死亡者数は327人で依然として多い。ところがこの数字には一人親方の業務中の死亡者数81人が入っていない。そのため、本当は15年には建設現場の災害によって408人が亡くなっている。なぜこのような数字になるのか。それは一人親方が労働安全衛生法上の労働者には当たらず、厚生労働省の労働災害統計の死亡災害発生状況に含まれないからだ。要するに建設現場の事故で一人親方が亡くなっても、労働災害統計上、死亡災害は発生していないことになる。本当にそれでいいのだろうか。
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 アンカー工事業を営むある一人親方は、目の前でとび職の一人親方が墜落事故を起こし、救急搬送されて入院したが、翌朝の朝礼で現場の副所長が発した「一人親方労災を使った事故だから、この現場の事故ではない。現場の事故としてはカウントされないから」という言葉を聞き、「現場の元請けの社員が一人親方をどのように扱っているのか、その一言で分かった」と振り返る。また「本人も知らない間に外注化され、実態は労働者だけれども一人親方だというのは、現場でもまだまだ多い」という。
 大半の一人親方は、公共工事設計労務単価よりも低い単価で仕事をしている。労災保険料、ガソリン代、駐車場代などの経費が支払われることはほとんどない。仕事の繁閑の差が激しく収入が安定しない中、加入しなければ現場に入れないからと、最低限の保険料率の一人親方労災にしか加入できない例もある。「一人親方にされてしまうと、労災保険料を含めて負担しなければならない経費は本当に多い」という言葉が現状の厳しさを物語っている。
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 そんな一人親方の処遇改善に一筋の光が射してきた。現在、6月の閣議決定に向けて検討が進む建設職人基本法の基本計画で一人親方の安全と健康の確保へ配慮する事項が盛り込まれる見通しになった。労働安全衛生法の直接の保護対象にならないとはいえ、多くの一人親方が業務中に亡くなっている事実は重く、特段の対応が必要とされたということ。建設現場で下請負人として他の下請負人と同じように作業に従事しながら、一人親方は労働者と見なされていない現状に違和感を覚えるのは当然で、むしろ遅すぎる対応と言える。
 基本計画の骨子案では一人親方の安全と健康の確保と併せて、一人親方に対する労災保険の特別加入制度への加入を積極的に促進することも明記された。任意加入であることに変わりはないが、厚労省としても積極的に加入を促すという、従来よりも一歩踏み込んだ対応を図る見通しとなった。また、建設工事の請負契約において「元請等が特別加入の状況を把握することを促進する」ことも盛り込まれた。
 労災保険の特別加入制度は、建設業の一人親方以外に、個人のタクシー業者や貨物運送業者などの自営業者にも適用されるため、一人親方だけを労働関係法令上の労働者と見なすことは現実には難しい。それならば民間工事であっても公共工事設計労務単価に基づき適正な単価を設定するとともに、必要経費を上乗せして支払うような仕組みに変えていかなければならない。安全を守るにもお金が必要だ。
 現場の末端で働く職人の処遇改善を発注者、元請業者、下請業者が真剣に考えなければ、本当に必要な職人がいなくなってしまう。法律上は労働者ではないとしても、同じ現場で「労働」している「者」であることに違いはない。その感覚を改めることが、働き方改革の第一歩になるはずだ。

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