業界記事
女性の坑内労働論争へ/禁止見直し厚労省に提出/労基法と機会均等法綱引き
2004-10-01
日本建設業団体連合会(平島治会長)、全国建設業協会(前田靖治会長)、日本土木工業協会(梅田貞夫会長)の3団体は30日、「女性の坑内労働禁止の見直しに関する要望書」を厚生労働省に提出した。
女性の坑内労働は、医師や看護師の業務、新聞や放送番組などの取材業務、高度な自然科学の研究業務など特殊な事例を除き、労働基準法第64条の2で禁止されている。
3団体は、同要望書を提出した趣旨として「男女雇用機会均等法の精神を尊重し、性別による労働場所や選択の範囲を制限すべきではない」「近年のトンネル施工技術の進歩に伴い、現在の建設現場では安全・環境面に格段の改善が図られており、女性の就労に対するリスクは大幅に減少している」などをあげている。
建設業団体が「女性の坑内労働禁止の見直し」を関係機関に要望したのは初めて。この背景には、要望趣旨にあるとおり土木技術などの飛躍的な進歩により、トンネル工事現場などの安全性が高まったことが第一にあげられるが、長引く不況や公共投資の減少により建設業全般で技術者を中心に人材不足が表面化してきていることも否定できない。
同要望書の提出を受けた厚生労働省の担当官も「本格的な検討はこれから」としており、3団体の要望どおりに結論が出るかどうかは未知数である。早ければ年内にも方向性が出される見込み。今のところ関係機関と建設業団体の担当者を除きあまり話題にされないが、徐々に波紋を広げそうな問題である。
労働基準法で固くガードされてきた「女性の坑内労働」。この問題には歴史的な経緯がある。労働者の人権問題の嚆矢(こうし)となったのは、19世紀初頭の英国の炭鉱労働における女性と子供の坑内労働である。狭い坑内で効率的に作業ができるのは成人男性より女性と子供が適しているとされ、同国の産業革命のピーク時でもあり、過酷な長時間労働が常態化した。今日の労働基準法の輪郭は、2世紀ほど前の英国の鉱山の坑内労働の実態の改善から端を発しており、その間、多くの政治家をはじめ、経営者、労働者、そして法律家の超人的な努力の蓄積があった。
昭和61年に施行された男女雇用機会均等法の影響で、平成9年に労働基準法が一部改正され、女性の時間外・休日労働、深夜業の規制が解消された。そして今、産業界から「女性の坑内労働禁止の見直し」の要望。19世紀の英国と時代も状況も異なるが、「坑内労働」という言葉を介して、現代の労働問題の原点が蘇ったかのようである。
一方、3団体が厚生労働省に要望した事実が示しているとおり、産業各分野への女性の進出は著しく、その能力と持続力は各企業の戦力の中核を占めているといっても過言ではない。新たな進出分野としてトンネル工事など高度な技術を要する坑内労働が加わるのは現代経済社会の要請の面もある。
法律的には労働基準法と男女雇用機会均等法の綱引きのような状態でもある。労働基準法から見ると「坑内労働」の条文は労働者の人権獲得の歴史の象徴のひとつ。一方、男女雇用機会均等法は女性のめざましい社会進出の精神的バックボーンになっている。二者択一というわけにもいかない問題で、今後、「女性の坑内労働」をめぐって論争に発展しそうな状況である。
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